「まなざしの先にあるもの」中村義孝 彫刻作品展 自然のかたち 内なるかたち−人影−

「まなざしの先にあるもの」中村義孝 彫刻作品展
  2011年7月26日(火)〜8月7日(日) ギャラリーしえる

3月11日の東日本大震災、続く福島第一原発事故による放射能汚染被害と
私達を取り巻く現状は「あの日」から暗く空虚なままのような心の状態が続いて
います。そんな中で出会った中村義孝さんの創りだすブロンズの作品達には生と死、
過去と未来、虚無と実在が奇妙に交差する独特な世界観が漂っていました。

まず私の目に飛び込んでくきたのは「進化の系譜(2008年)」です。
3体の子供の蝋型ブロンズ像はそれぞれ異なる仕上げを施され、正に今、進化への一歩を踏み出すかのようにたたずんでいます。1体は背中にネジの羽を背負い、下半身はゼンマイ(機械)化。両性具有の雰囲気とアルカイックな微笑みに近代化や機械化を押し進め、傷つき、私達の未来はどこへ行くのだろうと考えさせられます。
「ただ単に人体の再現にとどまらず、内面性や同時代の空気までも投影した人間像として表現する試みをしてきた結果、機械のイメージが人体に組み込まれたメッセージ性の強い人間像になってきた」と中村さんは語っています。まさに今を具現化した作品といえるでしょう。

左:スカーフの女(2009)、右:YUKI(2011)

今回展示した作品は制作過程に2つの特徴があると中村さんはいいます。
現実に存在している人間からインスパイアされたものと、これまでの人生経験から心の中に温めてきたイメージを形にしたもの。
「スカーフの女(2009)」や「YUKI(2011)」「樺(2011)」等、等身大の若い女性をモチーフにしたものが前者、「羽化のとき(2010)」「SWIM」が後者にあたるといえますが、中村さんによると「二つの制作プロセスを経て生み出された作品は一見別物のように異なって見えますが、どの作品も1本の軸の上に乗っていて多少振れているだけのこと」だそう。原型制作後、鋳造から仕上げまで一貫して自分の手で行い、鋳造工程の中で自らと向き合い、思案しながら作り上げてきた「作家の手の痕跡が残ったオリジナルの原型」といえるものです。
「どの作品も人間、生の息吹が詰まった人の形(影)なのです」
と語る中村さんの現代社会へ投げかける思いが感じられる展覧会でした。


羽化のとき(2010)

SWIM

文・写真/黒澤かすみ

情報更新 2011年8月31日